色彩と形の心理学

アートと日常にみる形態の方向性:上向き、下向き、水平が心に語る心理

Tags: 形態心理学, 方向性, 心理効果, アートセラピー, アート鑑賞

形態の方向性が心に語りかけるメッセージとは

私たちの周りには様々な「形」が存在し、その多くは何らかの方向性を持っています。たとえば、立ち木は上向きに、柳の枝は下向きに垂れています。地平線は水平に広がり、坂道は斜めを向いています。これらの形態が持つ「方向性」は、意識されることなく、私たちの心に様々な心理的な影響を与えていると考えられています。

アートの世界においても、画家やデザイナーは意図的、あるいは無意識的に形態の方向性を活用し、作品に特定の感情やメッセージを込めています。ここでは、アートセラピーの視点も踏まえ、日常やアート作品にみる形態の方向性が心にどのように作用するのかを深く掘り下げて解説します。

上向きの形態が心に与える心理効果

上向きの形態は、一般的にポジティブな感情やエネルギーと結びつきやすい傾向があります。例えば、空に向かって伸びる木々や建物の尖塔、グラフの右肩上がりの線などが挙げられます。

心理的には、上向きの形態は以下のようなメッセージを伝えていると考えられます。

アート作品においては、上向きに伸びる構図やモチーフ(主要な題材やテーマ)は、高揚感や精神的な高み、あるいは力強い意志などを表現する際に用いられることがあります。例えば、高くそびえる山や、天を指差す人物などが描かれた絵画からは、見る人に力強さや希望を感じさせることがあります。

下向きの形態が心に与える心理効果

対照的に、下向きの形態は、落ち着きや安定感、あるいは沈静的な感情と結びつきやすい傾向があります。垂れ下がる枝、滝の流れ、地面に向かって重力に従う物などが該当します。

心理的には、下向きの形態は以下のようなメッセージを伝えていると考えられます。

アート作品では、下向きに垂れる線やモチーフは、安らぎや静けさ、あるいは悲しみや失意などを表現するために使われます。例えば、柳の枝が水面に垂れる風景画は静寂を感じさせたり、うなだれた人物像は見る人に悲哀を伝えたりすることがあります。

水平方向の形態が心に与える心理効果

水平方向の形態は、最も安定した状態として認識されやすく、心に平和や落ち着きをもたらす傾向があります。地平線、水平線、横たわる人や物などがこれにあたります。

心理的には、水平方向の形態は以下のようなメッセージを伝えていると考えられます。

アート作品では、水平線を強調した風景画は静かで広大な空間を感じさせ、見る人に安らぎや瞑想的な気分をもたらすことがあります。また、横たわる人物は休息や平和、あるいは死や終焉といったテーマを表現する際に用いられることがあります。

斜めの形態が心に与える心理効果

斜めの形態は、水平や垂直とは異なり、最も動きや不安定さを感じさせる方向性です。坂道、稲妻、流れ星、斜めに描かれた線などが該当します。

心理的には、斜めの形態は以下のようなメッセージを伝えていると考えられます。

アート作品では、斜めの線や構図は、画面に躍動感や緊張感、不安定さや劇的な変化をもたらすために効果的に使われます。例えば、戦闘シーンや激しい動きを描いた絵画では、斜めの線が多用される傾向があります。

まとめ:形態の方向性を意識して心と向き合う

このように、形態の持つ方向性は、私たちの無意識に働きかけ、様々な心理的な影響を与えています。日常の中で目にする様々な形が、実は上向き、下向き、水平、斜めといった方向性を通じて、私たちの心に特定のメッセージを伝えていることに気づくかもしれません。

また、アートセラピーでは、描かれた線や形の方向性が、その時の心の状態を反映していると捉えることがあります。例えば、上向きの線が多く描かれている場合は前向きな気持ちの表れ、下向きの線が多い場合は疲労や沈静のサイン、斜めの線が多い場合は心の乱れや葛藤を表している、といった読み解き方がされることがあります。

アート作品を鑑賞する際にも、絵画や彫刻に使われている形や線の方向性に注目することで、作品に込められたメッセージや、それが自分自身の心にどのような影響を与えるのかをより深く感じ取ることができるでしょう。

形態の方向性が心に語りかけるメッセージを知ることは、自己理解を深めたり、日々の生活やアート鑑賞をより豊かなものにするための一つの視点となります。ぜひ、身の回りの形や、心惹かれるアート作品の形態の方向性に意識を向けてみてください。